ここに登場する人物とストーリーはフィクションです。
テクニカルに関する内容に関しましては、大阪府立大学客員研究員 深田先生にご助言をいただいております。


【前回までのお話】
丸番製薬の仲村さんは、上司の田中さんからの指示でカロリメーターを立ち上げることになりましたが、一難去ってまた一難。理解を深めるために、確認したい内容を手に、深田先生のところに向かいました。
一つ一つ課題を解決し、ITCの現象とその理由について理解を深めていくことになります。

深田先生、とりあえず、一通りの操作をやってみようと思いますので、ご指導お願いします!

はい、わかりました。やってみましょう。

システムの電源は入れたままの状態ですね。電源はどれくらい前から入れておくとよいものなのですか?

そうですね、私の場合は点けたままにしています。その方がシステムも安定しますから。でも、各研究室によってルールがあると思いますから、1日前から温度を設定しておくとか、少なくとも1時間前には立ち上げておいた方がよいと思いますよ。ベースラインを安定させたいのであれば、余裕をもって電源を入れておきましょう。もちろん、測定温度に設定しておくこともお忘れなく!

わかりました。次に、リファレンスの超純水を入れ替えます。この操作は週に1回実施すればよいのですね。1週間以上、システムを使用する予定がない場合はどうすればよいでしょうか?それでも入れ替えなくてはなりませんか?

使う予定がないならば、わざわざ交換する必要はありません。ただ、いくら水といえども、放置しておくと何が生えてくるかわかりませんから、1ヶ月に1度は、サンプル、リファレンス、両方のセルの超純水を入れ替えるようにしましょう。そう、大事なポイント!セルには必ずフレッシュな超純水が入っている状態で測定を終了するようにしてくださいね。セルを乾燥させた場合、もしセルに汚れなどが残ってしまっている場合、こびりついてしまう可能性がありますから。

わかりました!続いてシステムの洗浄、ですね。マニュアルによると、コントロールソフトウェアのコマンドを使うことになっていますね。Cell and Syringe Washを選ぶと画面上にガイダンスが出てくるので、その指示に従えばよいですね。

そうですね。指示通りに実施することで全く問題ありません。ただ、もっと入念に洗浄したいような場合、その他のコマンドも使い分けても大丈夫なんですよ。それぞれのコマンドの意味はマニュアルに記載があると思いますから確認してみてくださいね。

マニュアルの42ページですね。

マニュアルをご希望の方は別途お問い合わせください。

ただ、私の場合、サンプル測定後、セルは毎回洗剤、具体的に言うと14% Decon90か、20% Contrad 70を使って洗浄するようにしています。測定後のサンプルを取り除いた後、念のためガスタイトシリンジを使って超純水でリンスします。その後、洗剤をガスタイトシリンジを使って充填させます。泡立ちやすいので注意が必要です。汚れがひどそうなサンプルのときは、洗剤を入れて数分置いておくのもよいかもしれませんね。洗剤を取り除いたら、Cell Water Rinse (Long)を数回繰り返して完全に洗剤を取り除きます。いかにセルをきれいな状態に保つことができるかが、良好なデータを取得できるか否かのポイントになります。

そうなんですね。では、シリンジ洗浄の注意点はありますか?

通常の洗浄の場合、乾燥のステップ終了後に、シリンジのガラスの部分や、クリーンポジションの中に水滴が残っていないか目視するようにしましょう。水滴が残っている場合、乾燥が不十分でシリンジサンプルにメタノールが混入してしまう可能性があります。例えば、水―水測定を行っているにもかかわらず、大きな発熱反応が見えている場合、メタノールが混入していることになります。主な原因としては、フィルポートアダプターの装填が不十分であることが考えられます。

このフィルポートアダプターが慣れるまで心配です。

そうかもしれませんね。でも2~3回使えばきっと慣れますよ!あと、シリンジの洗浄についてもう1点。メタノールの残留がないにも関わらず、水―水測定で熱反応が起こる場合、滴定シリンジが汚れている可能性があります。こちらもマニュアルに記載があるので、それに従って洗剤で洗浄を行ってみてくださいね。

42ページですね。シリンジの乾燥が終了したみたいなので、サンプルを充填します。水滴はなし、と。サンプルは気泡の混入を防ぐため、室温に予め戻しておく必要がありますね。この時点でサンプルに気泡が入っている場合は、脱気したほうがよいですよね?

iTC200の場合、基本脱気は不要、と言ってますね。まぁ、目に見える気泡があったら話は別ですよね。室温で軽く遠心をかけて気泡を除ければほぼ大丈夫だと思いますよ。

なるほど、工夫も必要ということですね。では、サンプルセルにEDTAを充填して、滴定シリンジにCaCl2を充填します。プランジャーチップとの間に気泡もなし!パラメータ設定もOK!Start!!DPが安定したら滴定が始まりますね。

そうですね。様子をみましょう。

今回、仲村さんは、前回設定を忘れていたジャケット温度の設定も事前に行っていたので、すぐにシリンジが回転し始めました。測定温度と実際の温度が離れている場合、シリンジはすぐに回り始めませんのでご注意ください。

ところで先生。ベースラインの安定化の判断はシステム任せですが、自分で判断することもできるとマニュアルに記載がありますが・・・

ソフトウェアによるベースライン安定の判断基準は、若干ドリフトが見られているような場合でも測定が始まってしまう場合があります。iTC200はS/N比がよいので、測定結果そのものに、このドリフトは大きな影響を与えることはないとは思います。ただ、理解しなければならないのは、なぜベースラインが不安定になるのか?ということです。

エアコンなどの外気の影響に気をつけてシステムを設置する、とかですよね?

そうですね。その他にも原因はいくつかあります。近くに強い磁場を出すようなシステムがある場合も影響を受けます。エアコンや磁場が影響する場合は波打つような規則性のあるドリフトが見られると考えられます。また、セル内に気泡が混入しているような場合もドリフトしますね。最初から気泡が混入している場合もありますし、セルが汚れていて気泡が発生してしまうことなどもありますね。サンプルセル内に気泡が入っていると、シリンジ側のサンプルが滴定されることでその気泡が追い出されるようになり、ベースラインが右肩上がりに上昇するようなパターンが得られると考えられます。または、気泡が抜けたとたんにベースラインがいきなり上昇したり、とか。

そもそも、測定開始時のDPがセットした値の±1 µcal/sec内に収まっていなければならないんですよね。

そうですね。でも±1 µcal/secは、判断基準としてはちょっと甘いような気がしますね。できる限り、設定した値に近いこと、それが重要だと思います。そろそろベースラインは安定してきたころかしら?

そうですね、9.7 µcal/sec付近ですね。あ、測定が開始されました。終了まで1時間くらいかかりそうですから、休憩しましょう!

ちょっと待って、仲村さん。今ここで席を外すのはよくありませんよ。

えっ!?

少なくとも、2滴定目が終わるまで待つようにするべきです。

2滴定目、まで?

ベースラインのDP値までを確認したところまでは合格です。さらに2つ、チェックポイントがありますよ。

2つ!?

まず、設定したリファレンスパワーが目的の相互作用に適しているか、確認する必要があります。一般的に生体高分子の相互作用であれば、5 µcal/secに設定していれば問題ありません。今回はEDTAとCaCl2ですから10 µcal/secにしています。1滴定目は滴定ボリュームを少なく設定し、2滴定目から本来の滴定量にしましたよね?

補足します。滴定パラメータを設定する際、1滴定目を本滴定量の1/5くらいに設定していると思います。これは、ベースラインが安定し、最初の滴定が始まるまで、滴定シリンジがサンプルセル溶液と接しているため、その界面の滴定シリンジ内のサンプル濃度が薄まります。その結果、滴定された際、本来の濃度のものが滴定されないことになります。そのため、MicroCal ITCでは、1滴定目は解析に使わないデータとして、少量のサンプルを滴下した後、本測定を開始するように推奨しています
また、リファレンスパワーの設定に関してですが、マニュアルに記載がある10 µcal/secはあくまでもEDTAとCaCl2の反応を見るために設定している値です。測定されるサンプルがタンパク質などの生体高分子の場合、初期の滴定で生じる熱量は高くても-1 µcal/sec以内に収まると考えられ、リファレンスパワーの設定値は5 µcal/secで十分と考えられます。もちろん、高いリファレンスパワーを設定しても測定に問題ありませんが、その分余計な熱量をセルに与えていることになり、ノイズが大きくなる可能性があります。

リファレンスパワーの値はどれだけの発熱量を測定できるのかを意味しています。今回は10 µcal/secですから、少なくとも-10 µcal/secの発熱量を測定できます。発熱シグナルがY軸のゼロを突き抜けてしまうような場合、リファレンスパワーの設定は不十分であり、測定範囲外で、正確な発熱量を測定することができないことになります。

そのような場合、途中でリファレンスパワーを変更できるのですか?

いいえ、残念ながらできません。測定途中で変更可能なパラメータはInjection Parameterのところのみです。


もしリファレンスパワーを設定しなおして測定を続けたとしても、濃度情報、特にセル側の濃度が不正確になってしまっているので、測定をやり直すか、あくまでも参考値として、測定を続けるしかありません。

わかりました。1滴定目はサンプルの滴下量も少ないですから、2滴定目まで確認する必要がある、ということですね。では、もう1つは?

Spacingが十分かどうか?です。ITCの測定で重要なことは、各滴定のレスポンスがベースラインに戻る必要があります。なぜなら、ピークの面積を反応時の熱量として求めているからです。Spcaingがもし不十分だと、ベースラインに戻る前に次の滴定が始まり、正確な面積を求められないことはイメージできますよね?

今回のデータは・・・リファレンスパワー範囲内で、レスポンスもベースラインに戻っていますね。ベースラインに戻ってから随分時間がかかっています。この場合、Injection Parametersで途中変更可能、ということになりますか?


その通りですよ!仲村さん!!ただ気をつけなければならないのは、滴定後半にベースラインに戻りにくい現象がみられる左図のような例もありますからSpacingの設定には十分に注意してくださいね。では、休憩しましょうか?

はい!

続く・・・

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