等温滴定型カロリメーター iTC200 測定と解析のポイント!
カロリメーターマスターへの道 Vol.3 続き


カロリメーターマスターVol.3の続きになります。

※この記事の最後では、資料をダウンロードいただけます。

測定が終わるころを見計らって仲村さんが戻って来ました。



測定終わってるわね。うん、論文で見るようなデータが取れたみたい。マニュアル見ながら解析を行ってみよう、っと。




あ、コントロールの測定やってなかったけど、データきれいそうだから解析続けてみよう。それっぽいデータが得られているぞ。ベースラインの編集は基本不要、ってあるけれど、念のため確認してみよう。








まぁ、こんなもんかな?プロットデータに戻るには、WindowからDelta Hを選ぶ、と。続けて、バッドデータの削除ね。





続けてフィッティング、と。今回の反応は1:1 bindingだから、One Set of Sitesを選ぶと。200Iterボタンを「Chi-sqr is not reduced.」が出るまでクリックし続ける、と。






さすがデモサンプル!!Doneで確定、っと。さて、この値の妥当性はどうやって評価すればよいんだ?



あら、仲村さん。きれいなデータが得られましたね。解析もご自身でできましたね。

マニュアルに従ってフィッティングはできたのですが、データの妥当性についてどう捉えればよいか・・・

マルバーンから入手したTest Kitであれば、データシートが付属していたと思いますよ。






Data sheetには以下の注意点も記載がありますね。それぞれのパラメータの誤差範囲と、測定はコントロールデータの差し引きは行っていないって。仲村さん、今回コントロール測定はしていないから、この差し引きは行っていないわよね?



 はい、何もしていません。

なら大丈夫ね。このKitでは、Nが0.963、K、これは単位がM-1だからKAで、値は1.47e5、ΔHは-4152 cal/molでΔSが9.73 cal/mol/deg。あなたの結果と比べるとどうかしら?

データシートの測定結果


仲村さんの測定結果



Nの0.963±5%だと0.915~1.01、KAの1.47±20%だと1.17E5~1.76E5 M-1、ΔHの-4152±10%だと-3736~-4567 cal/mol。KA以外は範囲内に収まっているみたいですね。ちょっと高めです。ところで先生、それぞれの値に標準誤差のような値が出ていますよね?この値とデータシート内の値の許容範囲の違いは何なんですか?

この値は標準誤差でフィッティングより求められています。非線形最小二乗近似法の解析で、解析結果の値がどの程度ばらつくかを示している値となります。一般的に使われる標準誤差を求めるのであれば、複数回測定した値を用いて求める必要がありますね。

では、この値は小さければ小さいほど、実測値と理論値の差が少ない、と考えることができる、つまり、信頼性が高くなると考えてよい、ということになりますね。

そうとも言えますね。ただ、得られたパラメータの妥当性を評価するのであれば、KAΔHが的外れな値になっていないかも、ちゃんと確認する必要があります。例えばKAが1015など、測定不可能な値になっていないか?とか、測定結果から得られているΔHの値とフィッティングで得られているΔHが乖離していないか?などです。フィッティングは実測値と理論値を近づけようと計算するので、その反応がどのようなものであるか?ということを考慮して計算している訳ではありませんからね。


結合モル比Nの値はどうですか?この値はサンプルの有効活性濃度に起因するから、サンプルのクォリティーコントロールになる、と資料で見たことがあるのですが。

結合モル比Nの考え方については、論文などでも本来1である数字が、そうでないものが呈示されていることはよくありますね。あまり深く議論はされていないと思いますが、「1」にならない理由は、研究する側として、きちんと考えるべきなのではないか?と私は思っています。(詳細については深田先生コラム1をご覧ください)

なるほど。勉強になります。あと先生、今回はコントロール測定を行っていませんが、本来ならやらなくてはならないですよね?

そうですね。今回はTest Kitで、コントロール実験でほとんど熱が出ないことが分かっているサンプルですから省略できましたが、初めて測定を行うサンプルの場合は確認しなければいけませんね。

マニュアルには生データを差し引きする方法と、平均値を差し引きする方法が載っていますが、どのように使い分ければよいですか?

コントロール実験で得られるピークが再現よく出ているようであれば平均値を使っても生データを使っても問題ないですね。ただ、熱量が小さくても、ピークの大きさが変化しているようであれば、生データを使ったほうがよいと思います。ただですね、コントロール実験で得られる熱量が本当にコントロールになるのか?という課題もあるんですよ。

課題、ですか?

仲村さんはまだITCを始めたばかりだから、ちょっと感覚的に掴みにくいかもしれませんが、参考までに聞いてみてくださいね。

ちょっとこのデータを見てみましょう。今日測定したサンプルと同じCaCl2とEDTAの測定結果とコントロール実験のです。本来ならば、サンプル測定(青)の最後のピークサイズとコントロール(黒)の最後のピークサイズは滴定サンプルの希釈熱であれば同じサイズになるはずですよね?でも、そうでないケースが意外と多いんです。CaCl2とEDTAのように熱量が大きくて希釈熱が小さく、コントロールと有意に差がある場合はそれほど問題ないですけど、得られる熱量が小さくて希釈熱が比較的大きい場合、ただ単に差し引きすればよい、ということにはならないと思うんですね。
(詳細については深田先生コラム2をご覧ください。)

うーむ、なかなか奥が深いですね。

あまり気にされている方はいらっしゃらないかもしれないけれども、実際に解析をした場合、コントロール実験を差し引きしないほうがフィッティングがうまくいくケースもあるようです。ただしこの場合、結合比Nや結合定数KAの値には影響はありませんが、正確なエンタルピー変化ΔHを求めたい場合に影響があることになりますね。測定目的に応じて使い分けるべきだと思いますよ。

私の場合、目的が結合定数KAの比較がメインなので、コントロール実験は行わなくてもよい、ということですね?

仲村さん、そうではないと思いますよ。コントロール実験は、初めて測定を行うサンプルの場合は確認したほうがよいと思います。サンプル測定で得られた熱量が、本当にサンプル由来であるのか?もしコントロール実験とほぼ同等の熱量が得られてしまっていたのであれば、その結果は意味がないことになってしまいますからね。

 はい、肝に銘じておきます。


仲村さん、深田先生の下で無事測定を行うことができました。

今回、仲村さんが学んだ知識をまとめたノートと、マニュアルと測定経験を元に作成したフローチャートをダウンロードいただけます。
ぜひ、ご覧ください!

【ブログ後記】
7月24日(金)にパシフィコ横浜でGE Life Sciences Day2015が開催され、弊社も協賛とし参加いたしました。ご来場いただきました皆様、本当にありがとうございました。当日会場で、「ブログ読んでいます!」「次回も楽しみにしています!」と何人かの方におっしゃっていただき、本当にうれしかったです。ありがとうございます!筆者も社会人になってからカロリメーターを取り扱うようになりましたので、どういう所でユーザーの皆様が戸惑ったり、悩んだりするか、理解しているつもりでおります。これからも、皆様のニーズに合った情報を提供できるよう、努力してまいります。ご感想、ご要望などがありましたらお問い合わせフォームよりご連絡いただければと存じます。

ダウンロード